経営者が理解すべき、デザイン思考とは

GENKI IMAMURA

デザイン思考は企業に導入しやすいフレームワーク

デザイン思考とは「なぜこのサービスやプロダクトは存在しているのか」「この商品やサービスは本当に必要なものなのか」「顧客が本当に求めているものな何なのだろうか」など、デザイナーが何かを生み出す際に無意識に行っている思考と行動のプロセスをデザイン企業以外の「組織」に導入しやすくするために、IDEOやD.School(Institute of Design at Stanford)が共同で開発・啓蒙してきた「世界標準の型」なのだと思っています。組織が大きくなればなるほど、部署や階級ごとに様々な思惑や政治的意見が重なり、ユーザー中心設計なモノづくりができず、最終的に本質的でないものや納得のいかないものになってしまったり、サービス開発に多大な時間やコストを使ってしまったりしてしまいます。トップダウンが許される小さな組織であったり、カリスマ性とリーダーシップを兼ね備えた新しい価値を作れる人材がいたり、組織に新しいことを承認する文化があれば良いのですが、そのような環境でない場合は、各個人の意見や経験に頼った独自の進め方でプロジェクトを進行してしまったりして失敗することが多く見られます。そういった組織でプロジェクトを推進する際に発生する悩みを解決するために、多くの人の共感や承認を得ながら進めていく「デザイン思考」という世界標準のフレームワークが生み出されたのではないでしょうか。また、デザイン思考はユーザー中心的で「漸進的な価値」を作り出すプロセスに加え、使い方と理解度の深さによっては「革新的な価値」を生み出すこともできる秀逸なフレームワークでもあるのだと考えています。

Step 1. デザイン思考の理解と組織として実行するための能力

デザイン思考を深い理解度で組織に導入するためには、形式的な知識だけではなく暗黙知的な理解も必要になります。ここでは広義の意味でのデザイン思考を「3つのステップ」に分けて解明していきたいと思います。

まずはデザイン思考の形式的な知識と暗黙知的な知識を学ぶという第1の段階です。デザイン思考というプロセスを書籍やセミナー・イベント・インターネットなどの2次情報からインプットをしたり、デザイン思考のプロセスを理解している企業などのワークショップから生の情報(1次情報)を得たり、それらで得た知識を元に、実際にプロジェクトで実践することで暗黙知をインプットする段階です。この時点で組織として本質的なプロジェクトを進める能力や、漸進的な価値を生み出すプロダクトやサービスを生み出す能力を身につけることが可能ですが、参入している市場や環境、ビジネスモデルによっては他者と圧倒的な差をつけるほどのモノを生み出せるレベルには達していない状況だったりします。デザイン思考における多くのKeynoteやプレゼンテーションなどの体験談では、この段階についての話が多く、Human Centered Design,Customer Journey, Persona User Interface, User Experience などの狭義の視点でのデザイン思考について議論されているように思われます。

IDEOがデザイン思考を元に開発したSteelcaseのスクール用のチェアが第一段階のデザイン思考を活用した代表作といえます。「ドリルを買う人が欲しいのは穴である」というマーケティングにおける本質を、大きな組織でもそのプロセスに沿って進めることで企画・実行できるようになるのがデザイン思考が起こした価値の革新だと思っています。しかしハイパーコンペティションの環境ではこのような漸進的な価値を断続的に生み出す能力がないと、他者との圧倒的な差を作ることはできなくなってきているのも事実です。

Step 2. 価値革新と価値拡充の違いを理解しコントロールする

第2の段階では漸進的な価値の創造(価値の拡充)と革新的イノベーション(価値の革新)の違いを理解することです。この段階の理解をするためには、デザイン思考に加え、経営理論の知識を掛け合わせる必要があります。認知心理学ディシプリンのSECI理論やナレッジベースドビュー・ダイナミックケイパビリティ・知の探索・深化や経済学ディシプリンのイノベーションを起こすための形式知や実践知も必要になります。この状態まで理解すると、デザイン思考の本質を理解しながら、プロジェクトによって漸進的な価値拡充なのか、抜本的な価値革新なのかを俯瞰した目で見ながら実践知を積み上げることが可能です。またこの段階では、ビジネスモデルについての理解や最新の戦略論など幅広い領域の知識の理解や多くの失敗と成功の実践知が必要になります。

任天堂のWiiは価値の革新の代表的な例だと思います。ヘンリー・フォードの格言にある 「もし私が顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らはもっと速い馬が欲しいと答えていただろう」この視点を持つことができるかできないかが、革新的イノベーションを生み出せるかどうかの違いなのではないでしょうか。デザイン思考ではどうしてもこの思考を忘れがちになってしまいます。

Step 3. 芸術性と論理性のレベルを共存させる

第3段階では、芸術性と論理性を高いレベルで共存させる段階です。第2段階までで十分な結果を出すことは可能ですが、さらに上の次元で差別化したい場合はこのステップまで考慮しながら実行する必要があります。Step.2までは論理的で形式化しやすいものを理解していくの作業なのですが、ここからは暗黙知・カオティックな知を理解することに突入していきますので組織として理解し、実践するにはかなり難易度が高く、時間もかかってしまいます。(IBMなどの企業はこの領域にチャレンジしている企業) 優れた経営者や企業はこの領域を圧倒的な技術とセンスを持っているスペシャリストに依頼したり、CI(Corporate Identity)全体の設計やビジネスモデル・戦略性を考慮しながらアートや芸術の知識を取り入れることで、さらに大きな価値を創造しているのだと仮説しております。

※アート・サイエンス、正しい・楽しい、ロジカル・エモーショナル、ストラクチャード・カオティックなど相反する領域をバランスよくコラボレーションする能力が必要で、実力あるクリエイティブディレクターがこの舵取りができるのだと思っています。魅力的な企業に、有名な家具やアートがある理由にはこの暗黙知を理解するという理由があったりします。

DYSON,Nike,Apple,Tesla,Toyota,Virgin,Redbull,Uber,Airbnbなど、世界的にスタイルのある企業は、この3つの領域を理解した上でこだわりのスタイルを持って作っているからこそ人々を魅力することができているはずです。蔦屋書店もデザイン思考のプロセスを理解し(Human Centered Design)、人々のコミュニケーションの形(社会学)を革新し、なおかつ超一流が作り上げた芸術性ある施設だからこそ、あのようなブランド体験を作れているのではないでしょうか。 

世界標準のクリエイティブディレクターやイノベーターは3つの領域を個で推進することができます。ただ、彼らのように飛び抜けたセンスを持ち、常に圧倒的な「価値」を生み出すために、多くの犠牲や失敗の上で尋常ではない努力をしてきた存在は世界的にも稀な存在だと思います。(彼らは好きでやっているので努力しているとは思っていないが端から見れば、それは変人のレベルです) しかし、彼らのような飛び抜けた「個」がいなくても、この3つの領域を同時に意識しながらプロジェクトを推進することで「組織・チーム」として実行することができるのだと信じています。それにはまず、経営者がこの3つの領域に関しての知識(形式知・暗黙知・実践知)を得ようとする姿勢が必要なのではないでしょうか。企業としてこの3つの領域の知識を理解して実行する方針でなければ、革新的で本質的に世界を変えるようなビジネスが持続的に生まれることはないだと考えます。

私も頭では理解しているつもりですが、理解度の深さはまだまだ浅く、なかなか結果として実践できていない状態です。。やはり机上で理解した上で、実践する行動力と推進力(Execution)と情熱が必要だと胸の底で痛感している次第でございます。日々、泥臭く頑張っていきたいと思います。

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GENKI IMAMURA

GENKI IMAMURA

FOUNDER / BRAND DIRECTOR

BEES/HONEY INC Founder + Brand Producer ハワイ大学マノア校 ビジネス学部卒業 アメリカにてスタートアップ・ベンチャー企業の立ち上げとブランドプロデュースを担当。帰国後、2010年にブランディングエージェンシーとして幅広いブランディングを行うBEES/HONEYを立ち上げ、事業の立ち上げと売却を経験。現在は上場前後のスタートアップからミドルベンチャーなどIPO前後の企業に対してブランディングだけでなくブランド思考に基づくコンサルティングやアートディレクションを行っている。クライアントにはLevarages, Richmedia, Unimedia,UUUM, MACROMILL, Mobercial など

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