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Jean-Jacques Rousseau

BEES&HONEY.inc / Brand & Design Consulting Firm

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©B&H ーBrand Design Group

デザイン会社に仕事を依頼する準備はできているか

March 9 2016

クリエイティブ企業との買収、もしくはパートナーシップを組むという取り組みがトレンドになり始めていますMcKinsey&CompanyがLUNARを、Deloitte DigitalがHeatを買収するなど、今まではあまり想像できなかった、戦略系コンサルティング会社がクリエイティブ企業を買収するという流れが起き始めました。実際、私も規模は小さいですが、自社ブランドの売却を経験したり、受託という形ではなく、役員やパートナーシップという形でプロジェクトや事業に参加するという機会が増えていたりします。しかし、すべてのプロジェクトが何も起きずにうまく進んだわけではありません。なぜなら、戦略系の企業がデザイン企業のクリエイティブ力を活用して成長をドライブさせるためには、デザイン思考を持ち、優れたUI・UXデザインやブランディングができるという「表面的なスキル」だけではなく、他とは違うものを高いクオリティで創りたいという、クリエイティブにおいて一番重要な「内面的な思考」を持った文化や価値観も一緒に取り入れることが必要だったからです。

本質にこだわるクリエイティブディレクターを役員として招き入れることが成功の鍵となる

クリエイティブという力を使って、内面から生まれ変わろうとしている企業の代表格にIBMが挙げられます。世界で有名なブランドコンサルティング会社ウルフ・オリンズ(Wolfolins)のクリエイティブディレクターであった、トッド・シモンズ(Todd Simmons)がIBMのトップに加わったことで、IBMのクリエイティブ力が急激に上昇しています。(デザインチームを)日本ではUNIQLOが世界的広告会社・ワイデン+ケネディ(Wieden + Kennedy)の共同経営者として知られるジョン・C・ジェイ(John C Jay)を起用したりと世界を変えていく企業はいち早くこの流れを取り入れています。しかし実はこのような流れはNikeとWieden + Kennedy, AppleとCHIAT DAYの関係性のように、かなり昔から存在していたものでもあります。

IBMは今まで掲げてきた”THINK”の進化系である”OUTTHINK”「より深く考えろ」を根本の思考(Mind Identity)として策定し、次の時代に必要なCognitive「認知」(私の見解からすると、情が重要だというメッセージ)というワードを使って変わろうとしています。IBMは1,000人規模のデザイナーを抱える世界最大級のデジタル・エージェンシーになろうとしている。※Appleの”THINK DIFFERENT”はIBMの”THINK”に対してのメッセージだったとか。


では、なぜ今になってクリエイティブ企業の買収やパートナーシップが以前よりも進んでいるのでしょうか。それは 1. 商品やサービスの差別化が以前よりも難しくなり、プロダクトデザインやサービス設計にもブランド全体のエクスペリエンス(統一性と一貫性によるシームレスな体験)が重要になってた点 2. デジタルデバイスやIoTの普及により、ユーザーインターフェイスデザインの需要が高まってきた点 3. 顧客の知的レベルが向上し、企業の「社会的存在意義」が以前よりも重要になってきた点。などが挙げられると思います。昔はクリエイティブの力がなくても、差別化することやビジネスとして成功することも可能でしたが、現在のビジネスにおいてはクリエイティブ力が顧客に対する価値提供と直接的に関係しているため、優先順位が高くなったのではないかと思われます。

デザインを強みにするためには「理と情のマネジメント」が必要

しかし、買収やパートナーシップを組むにあたって越えなければならない幾つかの大きな壁が出てきます。その一つが「戦略とクリエイティブ」の統合です。「アートとサイエンス」「ロジカルとエモーショナル」「左脳と右脳」とも表現されますが、私たちはこの統合のことを「理と情のマネジメント」と言っています。(理=ロジカル・サイエンス・戦略)(情=アート・エモーショナル・クリエイティブ)これは「全く異なった環境で育ってきた、価値観の違う人同士が結婚して仲良く子供を育てる」くらい難しいことです。お互いの価値観が違うので、何をするのにもストレスがかかりますし、そもそもベースとしてお互いの異なる価値観を理解しようと思う「許容力」とビジョンを達成するための「献身性」が必要になってきます。※決して一方の意見や価値観を押し付ける状態になっては「理と情のマネジメント」はうまくいきません。

UNIQLO + LEMAIREもJohn C JayがCDになった後のキャンペーンだが、彼の本当の凄さはNIKEの「Just do it」「I can」などの企業本質をブランドキャンペーンに落とし込んでいるところだと思います。1999年に山崎まさよし氏らを起用したユニクロのフリース商品のキャンペーンを覚えている人たちも多いはず。


クリエイティブの力を活用するためには「クリエイター」と「経営者・戦略家」がお互いに歩み寄る必要があります。その必要な価値観を今まで多くの失敗と経験をもとにざっくりではありますが各人の視点でまとめてみました。この視点は、買収やパートナシップを試みる大企業の経営者だけではなく、上場前の企業や中小企業がデザイン会社に仕事を依頼する上でも重要な思考であるはずです。

経営者・戦略家に求めること

企業のビジョンを深く明確に打ち出す
ビジネスの戦略や戦術、要件定義を詳細まで詰めきる
差別化には説明のできない表現「カオス」や「アート」が必要だ
分かりやすく説明することはベターではあるが、ベストではない(人は理ではなく情で動く)
すべてのデザインクオリティをチェックする組織体制が必要(Creative Directorや責任者を配置)
戦略が「上流」だという「上下関係」ではなく、時間軸が違うだけの「並列関係」という視点を持つ
クリエイターのルーズな性格・行動を許容する(独特な感性を磨くためには必要なルーティンだと思う事)
クリエイターは効率性・生産性・既成概念・規律・ルールなどの概念を嫌う
目標や数値的な管理、費用対効果などを伝える時の「伝え方」に気をつける
クリエイティブをリスペクトし、クリエイティブの力を信じる
これらを受け入れる体制を整えることで長期的にも真似されづらい強い文化を作れると信じる
戦略とクリエイティブをつなぐ「カタリスト・ファシリテーター」(促進者)の存在が必要

クリエイターに求めること

本質的な企業哲学に沿って、最大限のアートを表現する
戦略的な人と同じ視点で話せるようにビジネスや経営に関しての知識を得る
新しい表現で話題を作る事も重要だけれども、生きるためには数値的な結果も重要だということ
自由にクリエイティブを作るためには目標設定や数値設定が必要である
内向的な付き合いだけではなく、外向的な付き合いも増やす
戦略的な資料を読み込み、理解する事で、クリエイティブの質が高くなる
ビジネスモデルや戦略、戦術に対しての疑問を持つ
結果を出す事に流されず、クオリティを高くする気持ちを保つ
嫌われるかもしれないが、本質的にぶつかり合う
説明して伝える以上に、説明せずに伝えられる方法を探す
会社を運営してくためには効率性・生産性・既成概念・規律・ルールなも必要
戦略的な仕事をリスペクトし、お金を稼ぐ事の重要さを知る

お互いに必要なこと

素直に率直に話し合う
お互いをリスペクトする
どちらかが上というスタンスをなくす
政治や取り巻きをなくす
保身のためではなく、お互いのビジョンのためにやりきる
自分のためではなくチームのために献身的な働きをする
お互いの価値観を許容し合う
世界や業界を変えてやろうという気持ちを持つ

新しい知を得るためには、企業の価値観を変えるくらいの覚悟が必要

デザイン思考を持ったクリエイティブ企業に対するニーズが高まっていますが、クリエイティブな仕事を依頼するにせよ、社内にデザインチームを作るにせよ、クリエイティブな企業を買収するにせよ、「戦略とクリエイティブ」の統合にはお互いの価値観を理解し、尊重し、歩み寄る事をしないとうまくいかないのではと思っています。かく言う弊社もこの「戦略とクリエイティブの統合」に何年も挑戦して、数多くの失敗を繰り返してきました。その上で思うことは、「デザイン思考をベースに優れたデザインができる能力」や「統一性と一貫性を持ったシームレスなブランド体験を創り出す能力」を企業に取り込むためには、企業文化や価値観などの「内面的な思考」から変えていく必要があるということです。そしてこのような「戦略とクリエイティブ」をうまく統合し強みに変えていく経営者が今後のビジネスを牽引していくのではないでしょうか。

今までの成功体験や価値観を変える覚悟を持ってクリエイティブを強みにしていく事に挑戦し続ければ
きっと良い方向に進んでいくという事を信じています。

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