ブランディングで“ゼロ”を描くことの意味

Haruka Yanagisawa

「永遠に残るものをつくりたいから、僕たちはゼロを描いているのかもしれない」——Bees & Honey(以下、B&H)独自のブランディングプロセスである「イデオロギー策定」についてB&Hの代表に水を向けると、そんな言葉が返ってきました。ゼロと永遠。一見矛盾するかのような2つの概念が同居するのは、なぜなのでしょうか。B&Hが「イデオロギー」をもとにブランド構築をする狙いを、紐解いていきたいと思います。


今村玄紀

BEES/HONEY INC Founder + Brand Architecture / Business Designer ハワイ大学マノア校 ビジネス学部卒業 アメリカにてスタートアップ・ベンチャー企業の立ち上げ、ブランドプロデュースを担当。帰国後、2010年にブランディングエージェンシーとして幅広いブランディングを行うBEES/HONEYを立ち上げ、事業の立ち上げと売却を経験。Life Style Brand “FIL”のBrand ManagerやInfluencer Marketing会社であるTagpicの社外取締役、人材紹介会社、メーカー、ITサービス会社などの事業戦略に携わる。企業戦略・競争戦略・組織戦略の視点から、シードラウンドやアーリーステージのスタートアップやグロースステージの企業のブランド戦略の設計をしている。手がけたクライアントにはFringe、FIL、UUUM、Levarages、Crazy、Tagpic、Amt、UZUZ、Estyle、Prored Partners、Plan-B、Ponos、Richmedia、Unimedia, Mobercial など。


─ 私がライターとして初めてB&Hのプロジェクトに参加した時、「企業のイデオロギーを軸にブランド構築する」というアプローチが非常に新鮮でした。そもそも、「イデオロギー」という言葉が耳慣れず、どういうことだろう?と。

今村: イデオロギーという言葉は、その企業が持つ思想やスタイルという意味で使っています。B&Hではブランディングの依頼を受けると、まず経営者・経営陣へのヒアリングを通して、その会社のイデオロギーは何なのかを策定します。それをもとに、さまざまなクリエイティブに落とし込んでいきます。企業にはよく、経営理念やビジョン、ミッションといったものがありますよね。イデオロギーというのは、それら全てを貫くものです。ビジョンやミッションは、時代の変化や企業の成長とともに変更を迫られることがあるのに対して、イデオロギーは変わることがありません。企業の「不変的なあり方」を言い表すものなんです。たとえば最近手がけたFringeさんのプロジェクトでは、「Be an Explorer – 探検家たれ」というイデオロギーを策定しています。

イデオロギーとは何か。サッカーでたとえるとさらに分かりやすいかもしれません。メッシ選手が所属するバルセロナには、「バルサのサッカースタイル」があります。つまり、チーム独自のイデオロギーがある。幼少期からバルサ・スタイルの教育を受け、コーチもそのように振る舞い、監督も、「バルサってこういうチームだよね」というのを分かった上で入ってきます。守備を固めてから攻めるサッカーはせずに、自分たちのスタイルを貫くことを大事にし、なおかつ結果も出しています。一方でたとえばレアル・マドリードの場合、スタイルを重視するというよりも、スター選手を獲得して勝ちに行っていますね。

─ イデオロギーの話をすると、クライアントである経営者の方々はどのような反応ですか。

今村: みなさん、すごく腹落ちしてくださいます。イデオロギーを定義した瞬間、それまでバラバラだったさまざまな事業、取り組み、理念など全てに「説明がつく」ようになるんです。経営戦略や理念体系などは、企業の成長過程でどこかに矛盾が生じ、変えなければいけなくなることがあり、すると、現場の社員から「また変わった」「社長の言うことがころころ変わる」という不満が生まれます。しかし、イデオロギーを策定するとそういった問題が全て解決されるので、提案すると「いいね、それ」と言っていただけます。
実は、経験豊富で成功している経営者ほど、既に高い精度でその人なりのスタイル、イデオロギーを持っています。ただ、自分自身ではそれを整理・把握することは難しい。ですので、B&Hでは、最初の段階でストラテジック・プランナーが経営者に対してヒアリングを行い、「思想」を聞き出していきます。プロジェクトの予算によっては、そこにアートディレクターが同席することもあります。ヒアリングにかかる時間は、僕の場合、最短では4〜5時間ほど。聞いたことを一度持ち帰り1週間くらいかけて考えた後、提案に伺います。これくらいのスピード感で進むのは非常に早いほうだと思います。

イデオロギーには経営者の好みが
反映されている

─ イデオロギーを基軸としたブランディングにこだわるのは、なぜですか。

今村 ブランディングを始めたばかりの頃は今とは異なり、いわゆる「3C分析」の手法を取っていました。顧客は誰か(Customer)、競合はどこか(Competitor)、自社の強みは何か(Company)という3つの視点で分析し、ブランドの提供すべき価値「ブランドプロポジション」を定める。しかし、やっていくうち、このやり方では解決できない問題があることに気づいたんです。

─ どのような問題でしょうか。

今村 「社長の好み」です。ブランドプロポジションというのは、たしかにその会社の「本質」を表してはいます。しかし、必ずしも社長が「好き」なものとは限らないんです。経営者と対話を重ねていくと、ブランドプロポジションとは別に、「本当は、こうしたいんだよね」という声を聞くことが多くありました。「仕事」と「好き」とが分離してしまっていたんです。人は誰しも「好きのリスト」を持っていて、それは唯一無二のものです。その人しか見聞きしていない情報や経験によって形成されるものですから、「好きのリスト」が誰かとそっくり同じになるということはあり得ません。

─ 経営者の「好み」をヒアリングするんですか。

今村 そうですね。経営者へのヒアリングでは、よく好き嫌いについて質問します。好きなものは何ですか、それはなぜですか。好きなブランドは何ですか。そういったことを通して、「好み」を探っていきます。そのやりとりの後、イデオロギーを策定していきます。

そういったプロセスを経ているので、その後のクリエイティブの部分はこちらに任せていただけるんです。イデオロギーが固まれば、そこから自然と、あるべきデザイン、文章のトーンなどが導かれるので。いざデザインの提案という段階でも、方向性にズレが出ません。あとは、自分たちがどれだけデザインのクオリティを上げられるかという点のみです。

実は、相手の好みを感じ取るというのは、百戦錬磨のアートディレクターがやっていることなんです。熟練のアートディレクターは、クライアントと少し話をしただけで、「あ、こんな感じですね」と、相手の望んでいるものが分かる。相手に「ハマる」ものを、一瞬にして導くことができるんです。ただ、どのようにして「感じ取る」のか、そのプロセスは形式化が難しい部分でした。その点、イデオロギー策定というのは、熟練アートディレクターが頭の中で行っているプロセスを、再現可能な形に置き換えているとも言えます。

「好き」とは、
時代を超えて残る唯一のもの

─ ブランディングに「好き」を反映させることに、どのような意味があるのでしょうか。

今村 「好き」とは何か。それを紐解いていくと、「生き様」や「スタイル」という言葉に行き着きます。生き様とは、その人の思想を体現したもの。僕は、生き様みたいなものは、思考の遺伝子としていつまでも残っていくものだと思うんです。人々の積み重ねによって。

たとえば、スティーブ・ジョブズには独自の「生き様」なり「思想」があり、それは彼の死後も、さまざまな形で生き続けていくと思います。彼の思想を体現していく人たちが、これからもきっと出てくるはずです。

つまり僕たちが、子孫を残す以外の方法で唯一、時代を超えて残せるものは、「思想」ではないかと思うんです。だから、僕がブランディングを通してやっていくべきことは、より良い「思想」を社会に残していくことなんだと考えるようになりました。より良い「思想」や「生き様」を、社会に示していくこと。それが、現在のB&Hのスタイルの根底にある考えです。

─ イデオロギーを策定するメリットはほかにもありますか。

今村 組織論の観点からも、企業にとってメリットがあります。経営者が経営戦略を立てる時、お金のために立てる人と、自分の好みで立てる人がいて。もちろん要はバランスなので、単純に2つに分けることはできませんが、しかしファンが多い会社というのは、「好きなこと」を通じて世の中に価値提供している会社ではないでしょうか。好きで夢中になれることをして、お金がもらえて、お客さんにも価値提供ができるというのは、僕はベターなあり方だと思うんです。

そして、経営者の「好き」や「スタイル」が感じられる会社には、そこに惹かれた人たちが自然と集まってきます。たとえば、「ものすごく働くけど、同じくらい全力で遊ぶ社長」がいたとします。すると、その生き様に憧れて、入社する人も出てくるでしょう。そのように、「好き」や「スタイル」を吸引力とした人と組織のマッチングが起こりやすくなる。その結果、単にビジネス的にスキルでマッチングするのとは違う組織が出来ていく。会社組織というものが、そのようにして大きくなっていくとしたらより良いのではないか、という思いがあります。ただ、現在のところ日本は、イデオロギーのない会社が多い。

─ それはなぜでしょうか。

今村 ひとつには歴史的背景によるものだと思います。懐古主義になってはいけませんが、江戸時代には、あったと思うんです。それが、戦争や資本主義の流れを経て、明治維新あたりから崩れてきたのではないでしょうか。経済的な発展を追いかける中で、欲のパワーが勝ってしまい、昔はあったものがリセットされてしまった感があります。欲をセーブ出来なかったんですね。しかし、「禅」はどちらかというと、セーブする方ですよね。ほかにも茶道や柔道など「道」がつくものは、そう。心をコントロールする術はあったはずなのに、欲が上回ってしまった。

しかし、そこから矯正し直そう、というのが今の時代の流れで。30代の人たちと話していると、同じように感じている人は多いと感じます。

やり続けて世に示す

─ 今後の課題はありますか。

今村 自分たちのスタイルは確立されてきたので、今後は“How”の部分、いかに伝えるかのクオリティをもっと上げていきたいですね。B&Hが提供できるサービスは大きく5つあり、コーポレートデザイン、戦略デザイン、組織デザイン、サービスデザイン、プロダクトデザイン。コーポレートデザインでは、ブランド原点の策定や、イデオロギーをもとにした社内外のコミュニケーション設計を、HRグロースでは採用サイトのコンテンツ制作などを行っています。今後、イデオロギーの社内浸透など、運用部分もニーズがあれば考えていきたい。

サービスデザインについては、たとえばFirst Filmさん、UZUZさんでは、B&Hでプランニングを手がけた後、売り上げが順調に伸びています。プロダクトの例では、ライフスタイルブランドのFILさんでは、イデオロギーをもとにしたプロダクトづくりを担当させてもらいました。僕たちが、イデオロギーを体現したブランドをつくり続けていくことで、世の中の人が「なぜ、そうなるのだろう?」と疑問に思ったり、共感して真似してくれたりしたら、良いなと思っています。

デザインやブランディングの世界ではよく、「本質」を捉えてそれを伝えていきましょう、ということが言われるのですが、僕たちのやり方は、それとも違っています。本質さえ問えばそれで良いのだろうか、という疑問が僕にはあって。

─ 本質論との違いは。

今村 本質は「そのものが最低限持たなければならない要素」だと考えると、そこに好き嫌いは入りません。たとえばコンビニ従業員であれば、商品を陳列し、レジを打つことが最低限の要素です。「笑顔」や「スピード」「ホスピタリティ」といったものは、別に必要ではない。でも、その店のオーナーが掲げる好き嫌いによって、ホスピタリティを重視したコンビニが出てきたりします。そういう環境で働くほうが、働く人にとっても楽しいはずです。

今、日本の広告業界では、「未来」を描くアプローチを取る方が多いです。「こんな世界があったら楽しいよね」という未来のシナリオですね。そう考えると、B&Hは、未来ではなくむしろ、「ゼロ」を描く行為をしているのかもしれない。

─ ゼロを描く、とは?

今村 企業の成長段階が「0→1」「1→10」「10→100」の3つだとすると、イデオロギーを定めて伝えるっていうのは、「0」に当たるものを描く行為なのではないかと。自分たちは、「ゼロ」の輪郭を一生懸命、描いている感じです。そこにはさまざまな色があり形があり、どういうゼロなのかをつくっていくのが、僕たちの役割。だから僕たちがアウトプットするものは全て「ゼロ」を表現していると言えます。ゼロとは、経営者の塊。経営者のありのままを視覚表現しています。そしてそのゼロをもとに、何らかの事業が生まれて、「1」になる。

─ 基礎となる部分をつくっているイメージでしょうか。

今村 そうですね。ですから、自分たちはブランディングエージェンシーではなくて「ブランド・アーキテクト・ファーム」といったほうが、しっくりくるのかもしれません。大切にしているのは、長年使い続けられるしっかりとした土台を作ること。

そして、B&Hの活動を見て「そのやり方、いいね」と思う人が増えれば、いつしかムーブメントになっていくはずです。今後はムーブメントを作っていきたいですね。そうすれば、世の中にもっと、AppleやGoogleのように「スタイルのある会社」が増えるはずです。そういう世の中であって欲しい、そういう世界をつくれたら、と思っています。


現在B&Hでは、ブランディング、マーケティング、ビジネスデザインに興味のあるディレクターを募集しています。私たちと一緒に、時代を超えて生き続けるブランドづくりに挑戦しませんか?ご応募をお待ちしています。

詳細はこちらから


AUTHOR INFORMATION

Haruka Yanagisawa

HARUKA YANAGISAWA

Writer & Translator

映画・IT・人材業界での会社員経験を経てライターに転身し、「AERA」「日経DUAL」などに執筆。北欧文化に精通し、書籍翻訳や講演を通じて北欧文化を日本に伝える活動も行っている。東京大学文学部言語文化学科を卒業。B&Hには外部パートナーとしてFringeブランディングプロジェクトで初めて参加。翻訳書に『フィンランドの幸せメソッドSISU(シス)』『マッティは今日も憂鬱 フィンランド人の不思議』 (ともに方丈社)など。

SERVICE

BLOG CATEGORY