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EL BULLI – THE INVENTION OF FOOD

November 7 2016

イノベーションを起こす組織作りはスタートアップではなくレストランにあった
スペインにある三ツ星レストラン「エル・ブリ」(エル・ブジ)はわずか45席のシートに年間200万件の予約希望が殺到する「世界一予約が取れないレストラン」と呼ばれながらも、2011年に閉店したクリエイティブなレストラン。現在は、バルセロナでエル・ブリ・ラボという食に関しての歴史や体験を「言語化」するラボを運営している。2018年にはエル・ブリ1846という研究機関も設立するらしい。1995年からは、10月〜3月の冬場は「ワークショップ」での新メニュー開発のために休業したり、粉になるフォアグラや液体になるラビオリ、人造イクラを使った「分子ガストロノミー」という前衛的な調理科学などで料理を創造する。レストランというよりもイノベーションカンパニーと呼んだ方が良いのではないでしょうか。

自分は食に関しては相当疎いのですが、エルブリだけは数多くの戦略系やビジネス書に出てくるので認知しておりました。ではなぜ、グルメな方々だけではなく、組織論などを研究している社会学者に注目されているかというと、その独自の強い信念や組織文化に、画期的なイノベーションを起こすための仕掛けがあるからだと考えます。


固定観念に捉われない、純粋な創造に対する姿勢が発明を生む
エルブリが壊した常識の一つに、自分たちが創り出したオリジナルレシピを「創造的な料理カタログ」に記録・分析・分類という形で「形式知」として記録していることがあげられます。一般的な日本の高級料亭や寿司屋などの伝統的な飲食店では料理における「暗黙知」を経験するために何年も「修行」を積み重ねる必要があります。また、優秀な先輩料理人は自分の保身のために独自の知識をそう簡単に弟子や外部に公開することはしなかったりします。

知をオープンにすること
しかし、エルブリは、そういった重要とされていた知識を個人に留めず、厨房で料理を撮影したり、メモをとったり、アイデアを共有したりして組織の一部として形式化し、その形式化された情報を「集合知」として経歴や勤続年数に限らず自在にとり出せる仕組みを作り上げたそうです。そして、「食」という分野以外の異業種の人達との交流を増やし、彼らから形式知・暗黙知を感じ取り、自分たちの独自のインスピレーションを活性化し、画期的なイノベーションをいくつも生み出し結果を残してきました。彼はよくスタッフに「80%の知識からクリエイティビティーが生まれる」とも言っているそうです。その発言は革新的なものは既存の知の掛け合わせからしか出てこないので、まずは知識を吸収しろと言っているようにも聞こえます。

創造とは人の真似をすることではない
これはまさに、ブランド思考のフレームワークにおける「シンプル・ルールの策定によるダイナミック・ケイパビリティの偶発」そのものだと思います。エルブリのシェフ、フェラン・アドリアは「創造とは人の真似をすることではない」という信念に共感し独自の哲学を組み上げてきました。 その信念を軸に行動へとつなげているので、今まで業界ではタブーとされていたことに踏み込んでいけたのではないでしょうか。つまり独自の哲学や信念のよって目的を達成しようとした時には「既成概念やルールを無視する」というポジティブなサイドエフェクトがあることを証明しているかも知れません。


共通点は独自の哲学が存在していること
エルブリは83年以降にこのような取り組みを始め、87年に初めて独自といえる独創的な料理が完成したそうです。アップルは1997年にこのことに気づき、2007年にiPhoneを市場に投入しました。革新を起こす企業の経営者は決まって「創造とは人の真似をすることではない」と考えています。しかしその言葉を結果として証明するためには、科学的でかつ芸術的アプローチでの創造を本質的な姿勢で長年持続し、目先の利益や結果だけに執着せず、泥臭く目標に向かってやりきるということしかないのかも知れません。

カリフォルニア創業でスローフードを広めた、オーガニックでサステイナブルなレストラン「シェ・パニース」も哲学は違えど同じような組織文化を形成しています。どちらにも言えることは、優秀な人材が育っているということです。会社の差別化要素であり、価値提供となる本当は誰にも言いたくない「クローズにしていた情報」を社内の誰にでも「オープン」にして共有することで、イノベーションが生まれる組織ができるのかもしれませんね。

「創造とは人の真似をすることではない」 骨身にしみます。

日本にもエルブリで働いた経験のある方が運営しているレストランがありますので興味がある方は是非(予約困難)
81 / 永島健志 / 広尾
Celaravird / 橋本宏一 / 代々木上原
Citta’ alta / 茂呂岳夫 / 後楽園
山田チカラ / 麻布十番

TOP PHOTOGRAPHS BY JOHN KEATLEY FROM WIRED
[M. Pilar Opazo, Appetite for Innovation: Creativity and Change at elBulli]. Columbia University Press 2016. Pront
[GREG WILLIAMS, 「エル・ブリ」の天才料理人、フェラン・アドリアの近未来味覚ラボラトリー].WIRED 2013.
[Ayaka Ueda, ホワイトアスパラガスから食体験に関する研究まで──天才シェフ、フェラン・アドリア率いる「エル・ブジ・ラボ」を訪ねて]. COURRiER Japon 2016.
LA SEGUNDA VIDA DE FERRAN ADRIÀ

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