FIL Project Story
August 15 2017
建築からプロダクト開発、パッケージデザインと幅広い領域のプロジェクトとなったFIL PROJECTは映像ディレクターであるEXITFILMの田村さんや、世界でも認知度の高いデジタルプロダクションであるGARDEN EIGHTの野間さんなどが手がけた、熊本県阿蘇郡南小国町にある黒川温泉のKUROKAWA WONDERLANDというプロジェクトが落ち着いた頃、「これから事業を立ち上げる人がいるのだけど、映像の話だけではないので是非一度紹介したい」と田村さんからFOREQUE代表の穴井俊輔さんを紹介していただくところから話は始まります。当初のプロジェクトは、南小国にFab Labを作るというプロジェクトとして始まったのですが、お話を聞いていくと、建築から商品開発・サービス開発をするという大きなプロジェクトであったため、まずはブランドの根幹となるコンセプト策定が必要なのではないかという事で、プロジェクトに参加させていただくことになりました。
Forequeは南小国で林業を営む会社で、穴井さんご家族で経営されています。南小国で植林されたブランド杉である「小国杉」を山から切り出し、製材所にて加工し、木材市場に出荷し、小売業者が買い付け、地元の工務店や個人事業主の大工に販売するという形で世の中に広がっていきます。しかし、現代では様々な建築材で住宅が作られたり、住宅着工戸数の減少等を背景とした木材需要の減少、木材需要の低迷、輸入材との競合等によって、製材所の数も林業に携わる人々の数も減少しているというのが大きな課題です。林野庁の調査によると、林業産出額は昭和55年の約1.2兆円をピークに減少してきており、近年は約4,000億円前後で推移しているようです。国の調査資料でも取り上げられていたのですが、各製材所での個別な動きも重要ですが、市場内と横断するようなブランドを構築し市場全体に影響を与えられるような、大きな視点での仕組み作りが必要であると考えました。
日本に5,000以上存在する製材所すべてが同じ課題に直面しているため、ブランド杉の認知拡大、木に特化したFablabの設営、エッセンシャルオイルや木工関連の商品の開発など、同じような方法で課題を解決しにくることは予め想定できました。そのため、売上を達成するという目標以外にも「どのようにすれば他の地域と差別化できるか」という視点をもち、プロジェクトの戦略を構築することを心がけることにしました。また単に差別化するだけではなく、Fabにおけるデータのオープン化、知識の共有、ブランドのプラットフォーム化を目指し、林業全体の底上げの「新しい切り口」を作り、「市場を刺激する」ということも視野に入れた設計にしております。
さらに、林業という産業だけに視点を置くのではなく、南小国の人たちがもっている哲学や生き方、在り方を示すライフスタイルブランドとして確立することで、業界を横断した広がりの可能性を模索するブランドに成長していけば面白いのではと考えました。ただ単に「モデルを起用してかっこよく見せる」という外面上の差別化されたブランディングではなく、WHYを軸とした生き方を提案するブランドにする事で他と本質的に差別化し、グローバルにも受け入れられるよう海外のメディアをターゲットにしたビジュアル作成をするなどの戦略的な理由からビジュアルの方向性なども策定いたしました。
現地調査とリサーチ
最初の訪問では、南小国で活躍している方々や町長に対して、在り方の定義・イデオロギー・哲学を訴求することの重要性や弊社が広めているブランド思考のプレゼンテーションをする機会をいただきました。また、町の事を知る調査の一環として、佐藤勝明さんには軽トラの荷台で山道を一緒に突き進み、赤牛の放牧の体験をさせていただいたり、北里竜紀さんには阿蘇の歴史や自然を感じることができる清流の森ツアーに連れて行ってもらったり、橋本哲典さんには、所有されている山の手入れの体験や町のことを教えていただいたり、穴井さんご夫婦には、南小国の良さを感じられる数多くの場所へ連れて行ってもらったり、黒川温泉にある御客屋という老舗旅館の七代目湯守でもある北里有紀さんを中心とした皆様と一緒にBBQをしたりと、本当にいろいろな場所を知り、人と出会い、優しさに触れ、多くの暗黙知や形式知を現地で体験することができました。
競合調査では、地域発の商品やサービスから、まちづくり、家具業界、世界のFABLABなどの領域から、数々の優秀なデザイナーやプランナーなど先人が手がけたプロジェクトなどの成功事例などを中心に調査し、どのポジショニングが真似されにくく、顧客に対しても価値提供ができて、自社の在り方も示すことができるかを念頭に調べていきました。 販路や認知も実績もないブランドの立ち上げということで、どのようにすればプロジェクトが成功に終わるのかをひたすら模索し続けました。その結果、穴井さんご家族が製材所の仕事をしながらも、独自の在り方を持っているデザイナーと定期的にコラボレーションする仕組みや、デザイナーに発注する際の依頼の仕方やデザインにおける価値観・知識などを共有し、弊社が関わらなくなったとしても、末長く顧客に使って頂けるような考え抜かれた商品を開発するための「土台作り」をすることをプロジェクトの最低限の目標とし、プロジェクトを進めることになります。
俊輔さん・里奈さんと現地の山奥でアイデアを出し合ったり(アイデアは壁一面にありました)
俊輔さんのメンターでもありこのプロジェクトの発端でもある牧野さんへのプレゼンなども含め、計5回の訪問、作成した調査資料は300〜400枚を超えました
イデオロギーの定義
弊社のプロジェクトは戦略策定の後に、ブランドの根幹となるブランド・イデオロギー(哲学・在り方・存在意義)の策定をするところから始まります。なぜプロジェクトにイデオロギーという存在が必要かというと、組織やプロジェクトには目標や目的、幸せになる以外の「在り方」を示した共通の価値観を持つことが重要だと考えているからです。
このイデオロギーが存在しないと、経済合理性を重視した、こだわりや独自性のない「正しい」けれど誰もが思いつくような「楽しさ」のないブランドになってしまうからです。そして、数々のワークショップと現地調査とリサーチによって抽出された、本質的で他には真似されにくく、独自性のある強みは「南小国に住んでいる人々は、自然に対しての尊厳を守り、人と人とのつながりを重んじる、心の暖かい人たちが多い」という在り方です。
これは言葉にすると、どの地域にも当てはまる一見当たり前のような要素なのですが、その「強みの深さ」に大きな差があるのだと考えております。それは、約27万年前から約9万年前までに起こった4回の巨大噴火によってできた阿蘇カルデラという地形的要素を軸とした農業や林業、黒川温泉として有名な観光業などホスピタリティーを重んじる地域性などによって構築された南小国町ならではの独特なパーソナリティなのではないでしょうか。
つまり、その土地に住んでいる方々の在り方や文化が価値を生み出すにものであり、差別化となる要素なのではないかということです。これは都会で忙しく過ごし、心の豊かさを亡くし、大切な人との時間も確保できていない人々の生活や価値観に対してのアンチテーゼになるのではないかと思い「人々にとって、本当の豊かさとはなんだろうか」を現代に問うブランドにしよう。というイデオロギーを策定することに決まりました。こうして「Fulfilling Life」というブランドメッセージとFILというブランド名が誕生しました。そこから約1年。数々の人々の協力を経てやっとブランドをスタートすることになります。
完成したFablab兼FILの旗艦店 ブランド・イデオロギーを策定した後にようやくブランドの要素となる、理念やビジョンなどの「MI(マインド・アイデンティティ)設計」やロゴやシンボルのデザイン、キービジュアルの・撮影・ブランドサイトの設計・デザインなどの「VI(ビジュアル・アイデンティティ)」メインコピーやタグラインなどの「VI(バーバル・アイデンティティ)」などの制作工程に進みます。
プロジェクトでは、ブランドサイト・デジタルコミュニケーション部分にGARDEN EIGHTさんを、杉を使用した商品や家具の開発、インテリアデザインにはCANUCHさんを、商品の開発にはSCNRさんを、建築にはYOUBIさん、調香にはパリにいるMIYA SHINMAさんに担って頂きました。またグラフィック周りとパッケージ制作、ビジュアル企画、コピーライティング、ブランド全体の統括はBEES&HONEY、撮影はTABLE COMPANYさんが担当しております。
今回のプロジェクトでは建築の設計からフレグランス商品の企画・制作・調香、家具の企画・制作、商品の企画・制作・ブランドサイトの依頼の仕方・クリエイティブ品質のマネジメントの仕方、パッケージやグッズなどのブランドエレメントの作成など幅広い領域をマネジメントする必要がありました。また、このようにプロジェクトのスコープが大きくなってきたことにより、戦略策定だけではなく、プロジェクトマネジメント・プロジェクト計画の重要性を痛いほど身に染みて体験できたプロジェクトでもありました。しかし、独自の在り方をしっかりと持っている方々とのコラボレーションは本当に素晴らしく、多くのことを学ばせていただいたのも、形としては見えないのですが、非常に大きな経験となりました。関わっていただいたみなさま、本当にありがとうございました。
まちづくりは、在り方づくり
日本の多くの地域は、理念や哲学などの在り方に関しての理念がしっかりと策定されていない状態のため、それぞれのプロジェクトも規律のないままで進められてしまい、一つのプロジェクトが成功したとしても、結局何をしているんだっけ?と言う状態に陥ってしまうの傾向にあるのではないかと思います。その地域で作られた商品をデザインの力で向上させたブランディングや地方で企画されている広告やCMも地域の認知拡大やコミュニケーションとしては大変素晴らしいものだと思うのですが、根本的なまちづくりという視点としての正しいアクションかというと、疑問をもちます。これは、長年かけて地域を変革していくというすぐには結果のでない「正しい設計」よりも、短い期間で結果の出る「楽しい企画」の方が重視される日本的な文化に根本的な原因があるのではないでしょうか。
世界の多くの人々が視察するポートランドやエストニアなどとの差は、短期的に結果を出して満足するという在り方よりも、長期的な結果を出すために日々実行しているプロセスに重きに置き、どこにも真似できない地域を作ろうとする在り方を目指すという根本的な価値観に違いにあるのではないでしょうか。これは日本の大学とアメリカの大学に対しての考え方と全く同じで、日本は入学する事と卒業する事が重要視し、アメリカは大学で何を学び経験したのかを大切にするという思考の違いに似ているような気がします。つまり、国民性や文化などの価値観を含めた「在り方」から変える覚悟で望まないと、本当の意味での「まちづくり」は実現しないのではないでしょうか。
まちづくりの調査で、数十冊ほど本や文献を読んでいる際に、北海道上川郡東川町という、本質的に在り方を定義している町の事例を発見することができました。書籍でしか内容を把握しておらず、非常に浅い考察かもしれませんが、事例や成功例などの仕組みを紹介している地域が多い中、町やそこで生きている人たちの在り方を伝える事に注力しているのはこの書籍のみでした。この内容を伝えようとしているだけで、編集者にも、町の人にも、他とは違う在り方を示そうというこだわりの深さを感じる事ができました。また、行政と住民が一体となって「在り方」を議論し、自責を持って考え、動く仕組みを実践している町だからこそ、このような本としてアウトプットされたのではないかと勝手に推測しております。ポートランドも30年程前から根気強く、ゆっくりと独自の在り方を模索し、挑戦し、試行錯誤を繰り返した上で、やっと現在の姿になっていると聞きました。日本の企業が視察しに行って、表面だけの仕組みを取り入れて、同じようなまちづくりができるような単純な話ではないのだと思います。
私たちのこだわり
この世に、家族や友人とつながっていることを実感することによって感じられる「幸せ」よりも重要なものがあるとすれば、何があるでしょうか。なぜ人は家族や友人がいるのに、その大事な人々と多くの時間を費やさず、仕事に時間を費やすのでしょうか。生きてくためにお金が必要だから、それとも家族や友人との時間を増やしたいから、もしくは、そこに世界を変えるような事業を成し遂げたいという野心があるからでしょうか。しかし、結果として世界を変えたとしてどうなるのでしょうか。安全欲求・生理的欲求・承認欲求・社会的欲求・自己実現・自己超越など理由は様々存在しているかもしれないけれど、幸せよりも重要なものがあるとすれば、それは「在り方」なのではないかと考えます。
キング牧師は言いました。「道の途中で、私の言葉や歌が、誰かを助け、元気付け、正しき道に導いたとき、初めて、私の生に意義があったと言えるのだ」と。このように、多くの人に影響を与えられるような「在り方」を示すことが、幸せをも超える可能性をもつ人間の存在意義なのだと考えます。だからこそ、私たちは「在り方」を定義するところからプロジェクトをスタートさせます。それがブランドの存在意義でもあり、人々に影響を与える存在になることを信じているからであり、この在り方(イデオロギー)の重要性を伝えることが私たちの使命だと思っているからです。在り方というのは人それぞれで、どれが「正しい」というものではなく、正解はないと思っています。しかし、より「正しくて楽しい」方がみんな喜ぶのではないでしょうか。より正しくて楽しい世界にすることが、ちょっとセンスのよい世界になることを信じて、私たちはプロジェクトに挑んでおります。
FILプロジェクトはまだまだ始まったばかりで、上記では机上の綺麗事的な戦略ばかり言ってきましたが、今後も持続させていくためには、泥臭く行動していく必要があると思っております。このブログも書くかどうかも迷いましたが、豊かさとはなんだろうか。都会にはない大事な価値観とはどのようなものだろうか。そんな「在り方」を思い出させてくれるブランドになるために、ここに思いを記させていただきました。
下にあるクレジット以外にもお手伝いいただいた方や、秘密にしなければならない方、これからメインとして動いていただく方も存在しております。多くの方々に支援していただいたFILも第2章がはじまります。皆様、至らない事が数多いかと思いますが、引き続きご指導ご鞭撻の程宜しくお願いいたします。
ALL LINK
FIL – LIFESTYLE BRAND & FURNITURE
BEES&HONEY – BRANDING AGENCY
GARDEN EIGHT – DIGITAL PRODUCTION TEAM
CANUCH – FURNITURE & INTERIOR
SCNR – DESIGN BOUTIQUE
MIYA SHINMA – FRAGRANCE
YOUBI – ARCHITECTURE/a>
EXITFILM – FILM PRODUCTION
ALL CREDIT
AGENCY | BEES&HONEY INC
CREATIVE DIRECTOR | GENKI IMAMURA
SPECIAL THANKS | YASUHIRO TAMURA
ART DIRECTOR | RYOSUKE TOMITA
PROJECT MANAGER | KENTARO KANAYAMA
INTERIOR & FURNITURE DESIGN | YOSUKE KINOSHITA
INTERIOR & FURNITURE DESIGN | YUSUKE NOGUCHI
DIGITAL CREATIVE DIRECTOR | HIROKI NOMA
CREATIVE DEVELOPER | MISATO DAIKUHARA
CREATIVE DEVELOPER | KENTA TOSHIKURA
CREATIVE DEVELOPER | MIKIKO KIKUOKA
PRODUCT DESIGNER | HIKARU MUGITA
PRODUCT DIRECTOR | KOHKI SHIRAISHI
ARCHITECTURE | NAOKO OOSHIMA
ARCHITECTURE | KAZUYA YOGO
PHOTO COORDINATOR | SHUNSUKE IMANAKA
PHOTOGRAPHER – KEYVISUAL | CHANI KIM
PHOTOGRAPHER – FURNITURE & GOODS | YUSUKE ONITSUKA
STYLIST | SHOHEI FUJINAGA
HAIRMAKE | AG
FLOWER ARTIST | RYUKI YASUI
PARFUMS | MIYA SHINMA
TRANSLATION | NORIYASU HARADA LI
PRESS & PROMOTION | SECRET
EXECUTIVE DIRECTOR | COMING SOON
Return to magazine