Happiness depends upon ourselves

Aristotle

BEES&HONEY.inc / Brand & Design Consulting Firm

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©B&H ーBrand Design Group

本質的なクリエイティブは、ブランドの主義設計から

January 31 2022

BEES&HONEYでストラテジックプランナー・ディレクター・プロジェクトマネージャー努める金山さんは、28歳にして数々の企業のコーポレートブランディングの主義設計に携わる。本質的なブランド設計とは何なのか。また、それをクリエイティブとして表現するには何が必要か。今回、その根本にあるフィロソフィーを深掘りながら、金山さんの仕事の流儀について伺いました。

幅広くアーツを見渡し、美意識を磨く

─ BEES & HONEYのクリエイティブには強い美意識を感じます。そこで金山さんご自身が大切にする美意識について教えてください。

美意識とは即席では生みだせず、日々の思考や選択の積み重ねがあってこそ築かれます。一例として心を動かされたエピソードを。UKロックバンドのオアシスのボーカル、ノエル・ギャラガーが作った“Champagne Supernova”という曲にまつわる話です。これ、彼の無意識下で作られた曲だそう。本人がなぜこの歌を作ったのか覚えていないにも関わらず、今もなお若者たちがこの曲を愛しています。泥酔していたのかハイになっていたのかはさておき、無意識下で作るものは人生のなかで繰り返してきた意思決定に裏付けされていて、その人の美意識の塊であるはず。純度の高い美意識には、人を突き動かすだけのインパクトが詰まっているんでしょうね。この誕生秘話を聞いて、日々、美意識を磨かなければいけないと改めて考えさせられました。

─ 「美意識」を磨く。難しそうですが、金山さんが意識していることはありますか?

広く見渡すことは大切。一つの分野を深く掘り下げるだけでは、知識が溜まっていく一方で視野が狭くなってしまう危険性もある。それでは「美意識」は育たないと思っています。ジャンルに囚われず、様々なものごとを見ていく中で磨かれるはずです。アートはもちろん見ますが、アーツも大事なのかな。

─ 横断的に知見を積むべきということですか?

引き出しが多いと表現の幅が格段に違いますからね。審美眼を磨くことで期待を超える表現ができると思っています。例えばWEBデザインの場合、WEBの知識だけでは既視感のあるものしか作れない。既存のクリエイティブを超えるには、紙も知っている方がいいし、文学の知識もあって然るべきだし、家具や建築の背景や造形美も理解していたい。そんな自分の感覚を大事にしながら、世間の評価の深堀りも必要です。誰に支持されていてどんな点が愛されているのかを学ぶことで、美意識をビジネスに転用できる。ビジュアルを作る仕事では、モデルやプロップひとつ選ぶにも知識が必須ですよね。横軸と縦軸を見渡すことを意識することで、最近は解像度が上がってきた実感があって嬉しいです。

─ 美意識を磨くことが具体的に仕事に生きている、と。

ストラテジックプランニングから始めて、視覚的な制作物を着地させるにあたり、「クライアントの主観」と「世の中の客観」をどちらも理解する必要が有ります。だから最初のヒアリングでは、社長自身の人格・会社の人格・今後ありたい人格・業務フローから見える人格・顧客の人格・ビジネス面での強み・業界内でのポジションにとどまらず、好きなブランド・好きな国・好きなもの…….まで幅広く伺います。そこでポツポツと出てくる言葉には、その人自身の美意識が潜んでいるもの。クライアントが「自分たちはこうあるべき」という主観が強くなるのは仕方がないことなんです。けれど僕らが「無意識化で出てきた好きなもの」を分析し、その客観を共有していくことは、主義設計の肝です。主観と客観のギャップに気付いていただいた上で、主観をどう調理するか、どのように主観と客観を織り交ぜていくか、クライアントの根幹ある主義設計を進めます。現状と将来像を細やかに分析した上で、主義を視覚化していくことは納得値に繋がるはず。市場における強みと弱みでアプローチするコンサルティング手法が多いものですが、本来的には会社や社長の本質を知ることが大切なのでは。

─ ヒアリングの精度と、美意識のあるクリエイティブは、知識の積み重ねの賜物なんですね。

いえ。実は知識だけでなく、精神性や経過にも美意識は有ります。美意識というと表層的な視覚の話しだと思われがちですが、僕は意外とに見えないものも大事にしていて。ヒアリングでは五感、第六感も含めた感覚で掴み取りたい。「理」という知性を高める大前提はありながら、「情」がなければ新しいものは生まれない体感もあるんです。ロジックやファクトだけでは片付けられないところにも美意識が存在しています。言語化できなくとも、世界観や佇まいや振る舞いから感じられるものってあるじゃないですか。……難しいですね(笑)。美意識を磨くのに、終わりはないと感じるばかりです。

本質を度外視してまで、利益追求はしない

─ 美意識について伺ってきましたが、「ビジネスと美意識の両立」が難しい局面はありませんか?

ビジネスとアートの両義性…。もちろん難しいです。クライアントが「利益に繋がるかどうか」を気にされるのは当然。そこで制作側には「何が直接的な利益になっているか」のビジネス視点を意識してもらいます。ユーザーの購入体験になっている場所が、アートゆえに分かりづらくなってはいけません。ビジネスとして経済を回さなきゃいけないし、美意識として納得いくものを作りたい。ならば二軸をいかに中和させていくかがディレクターの仕事場です。クライアントにはアート・デザインの重要性を、制作側にはビジネスの重要性を伝える。どちらとも闘わなければいけない局面はありますが、そこは逃げてはいけないと思っています。

─ 利益を追求するだけのクリエイティブはされないんですね。

とはいえ、僕たちはビジネスをないがしろにすることはありません。クライアントには目先の売り上げではなく、長期的かつ本質的に価値を提供し続けていただきたい気持ちがあります。どんなビジネス形態で稼いでいるかは会社によってさまざまであり、それはクライアントと対峙することで初めて見えるもの。会社の仕組みを知ると面白みを感じますし、どんどん好きになって情が湧くんです(笑)。もちろんクライアントのステートメントによって資本主義的思想が強いことはありますよ。売り上げを立てなけれないけないフェーズでは、アート性が利益に繋がるのか不安を抱かれることは多いもの。スタートアップなのか成熟期なのかビジネスのフェーズによってビジネスとアートの要素を調整することも必要なので、視点を外さないように意識していますね。反資本主義というと利益を否定しているようですが、そうではありません。ブランドの本質を度外視して利益を追求することを否定しているんです。いつだって、我々のクリエイティブがクライアントの成長を後押しすることを目指しています。

─ ここでBEES & HONEY自体のビジネスの進め方についても伺いたいです。ウォーターフォール型とアジャイル型、どちらが適切だと感じられていますか?

ウォーターフォール型がベースです。案件の性質にもよりますが、アジャイル開発は何をどこまでやって利益として捉えるかの定義が難しいですよね。一方、ウォーターフォール型では必ず確認とフィックスの段階が入ります。弊社のコンサル要素を含んだ制作は、包括的かつ長期的になりがちですし、独自の手法。慣習や通例がないので、よりクライアントとの相互理解が必要になり、承認やフィックスが大事な段取りです。

制作の本質=ブランド設計

─ Bees&Honeyにおける、制作の本質をお教えください。

僕たちの得意な領域はブランド設計であり、それが本質的な制作だと考えています。マーケティング・広告・PRとは異なり数値として計れない領域ですが、ブランド設計の幹がしっかりしていなければ、競合他社との差別化は難しく結果的に迷走してしまう。いざ広告を打つときに、一過的な施策に走ってしまう可能性もあります。有名なタレントを起用したり、とりあえずイメージカラーを変えたり…と、そこには一貫性がない。ですから、消費を促すことをファーストにせず、まずブランドの軸を確立したいのです。

─ 「主義のデザイン」と「ものが売れるデザイン」に親和性はないのでしょうか?

そんなことはありません。まずレイヤーを分けて捉えたい。例えば、エンドユーザーに届くところまでを目的とするなら「ものが売れるデザイン」、上位概念を固めるなら「主義のデザイン」が必要だと考えます。その両立はできるはず。情報社会では手に取りやすく買いやすい「ものが売れるデザイン」は当たり前になっています。では「ものが売れるデザイン」の付加価値はどこから生まれるのかというと、ブランドの根底にある背景です。「どんな人たちが」「どんな思いで」作り上げたのか裏に隠れたストーリが感じられる「主義のデザイン」が完成している必要がある。ただキャッチーなだけではエンタメになってしまいますし、外堀を固めても賢いユーザーには見透かされてしまうもの。「主義のデザイン」と「ものが売れるデザイン」は並列に置くものじゃなくて、上下に置くものだと考えています。

白黒ではなく、グレーのグラデーションを大切に

─ BEES & HONEYの独自性には、既存の枠組みに囚われないある種のアウトロー精神も感じます。

結果として反知性主義の側面があるかもしれません。反知性主義は、凝り固まった知やエリート性に対するアンチズムと言わていますね。確かに僕は、権力や既得権益に囚われず、いつでも思考していたいです。というのも最初にお話しした美意識と繋がってくるもの。ロジックやファクトといった「知」以上に大切なものがあると思っていて、それは「情」であって可変的。「知」も「情」もどちらかだけが正しいわけではないので、振り切って凝り固まりたくないんです。だから、いつだって通説や極論を作ることは避けたい。二律背反であるものを中和させる存在になれると心地いいんです。白と黒ではなく、グレーのふくよかなグラデーションの中で仕事をしたいですね。

─ 多様性を大事にしているから、新しきを生み出せるんですね。ちなみにBEES & HONEYは提案資料ひとつとっても、独自のものを作られていますよね。
どんどんアップデートしているんです(笑)。一度成功したやり方に固執せず、案件の規模やスケジュールを踏まえて、WBSや香盤表などの最適解を見つけていくのが僕たちのスタイルです。求められるもの以上を提供しなければいけないのがビジネスですから、いつだって何かを踏襲するだけでは上手くいきません。

自走性のある人と、ともに働いていきたい

─ 金山さんの想いと働き方について伺ってきましたが、実際にご自身の資質を生かして活躍されてますね。

確かにリンナイさんの案件のように、規模感が大きく、手応えを感じられた仕事は嬉しいものでした。マイクロバブルという新商品のリリースの際は、戦略からWEBにブランドブックからCM制作まで一年を要しました。クライアントの、社長・副社長・営業・開発・マーケティング室と関わり、弊社から携わったのはストプラ・ディレクター・PM・アートディレクター・デザイナー・カメラマン・エンジニア・エディター。クリエイティブ総括や全体PMのパートナー会社さんとも共同で取り組んだので、携わる人の多い案件でしたね。僕自身の仕事としてはクライアントへの提案、制作書の管理、制作物の管理、その経過や成果物にまつわるディレクション、と多岐に及びましたが、無事にプロジェクトが成果を挙げ、充実感を感じています。

─ 金山さんの視点では、BEES & HONEYはどんな人にピッタリな会社だと思われますか?

自主的で、自立的で、自走性を持っている人。周りが見えていて、周りから求められている自分を理解しようという感性のある人は、向いている気がします。ある種のギルド型組織ですから、協調性や感受性を持ってそれを楽しめる人には最適なのでは。また、現状PMやディレクターをしていて今後はどちらの視点も持ちたいと思っている人には、ぜひ、BEES & HONEYに参加して欲しいと思っています。本来、PMはプロジェクトを進ませる役割で、ディレクターは良いものを作るための提案をする役割。弊社では両方のポジションを兼任することも多く、それが密度の濃さややりがいに繋がっているように感じます。

─ 社内で美意識を共有する機会はありますか?

フィードバックをしあう時間を細かく設けていますし、最近はできていませんがコロナ前はムービーナイトという社内イベントも定期開催していました。みんなでご飯を食べながら、デザインやアートに関するNetflixのドキュメンタリー番組「アート・オブ・デザイン」を鑑賞し、それぞれ何を感じたかのアウトプットをしたり。感じることは人それぞれですが、共有することが共通認識を育むことに繋がると思っています。

─ ちなみに金山さんは映画好きだとか。美意識にまつわるオススメ映画5選、教えてください。

映画から歴史を知るのが好きなんですよね。昔からDVDはよく借りていて、サブスクが出てきてからは漁るようになり、多い時には月17本くらい見てました(笑)。すごく悩みながらの5選です。興味があれば、是非見てみてください。


・シカゴ7裁判
ベトナム戦争の反対運動を発端に、抗議デモを企てたとして起訴された7人の男(=シカゴ・セブン)の裁判を描いた実話に基づくストーリー。陪審員の買収や盗聴などの不正が相次ぎ、米国史上最も理不尽な裁判となるが、男たちは不条理な政権と司法に立ち向かっていく。
Kanayama「目先の勝ち負けやそれぞれが考える正義を否定し合うのではなく、本質を見分けることが重要だと気づかせてくれた作品」

・A GHOST STORY
アメリカ・テキサス郊外で幸せに暮らしていた若い夫婦。ある日交通事故により夫が急死してしまう。死んだはずの夫だが、幽霊として自分がいなくなった世界を彷徨うことに。悲しむ妻の元へ訪れるも、自分の存在には気づいてくれない。それでも見守り続ける姿を描いたファンタジー。
Kanayama「音もセリフも少なく余白だらけ。観るものに思考を委ね、深く深く考えさせてくれる芸術的な作品です」

・ストーリー・オブ・マイライフ
南北戦争時代に“自分らしく生きる”ことを願うマーチ家の四姉妹。作家志望の次女ジョーは、性別によって決めつけられてしまう世の中に疑問を抱く。夢を叶えるために、幼馴染のローリーからの求婚も断り、自分の信じる道を突き進むはずだったが…。
Kanayama「四姉妹の母親がジョーに伝えた『愛するより愛されたいは、愛じゃない』というセリフが印象的です」

・サーミの血
スウェーデンの先住民族サーミ人である少女は、幼少期から差別に苦しんでいた。成績が良いことから、街の学校に進学することを望んだが、教師からは反対される。ある時、スウェーデン人のふりをして忍び込んだ夏祭りで、都会的な少年と出会う。彼を追いかけ故郷を出て行ったが…。
Kanayama「新たな時代と文化を知るきっかけに。またこうして名作に出会えたことに感謝しかないです」

・ミッドナイト・イン・パリ
脚本家ギルは、婚約者イネズ、彼女の両親とともにパリへ旅行に。作家の夢を捨てきれなかったギル、ある日突然芸術の花開く1920年代にタイムスリップしてしまう。次から次へと偉人を名乗る者たちが現れるが、その中でロマンチックな出会いが訪れる。
Kanayama「今この瞬間、自分の時代をどう生きるかを考えなさい。そんなメッセージが聞こえてくる作品です」

金山健太郎

Director / Project Manager

1993年生まれ島根県出身。関西を中心に制作会社で数年働いた後、2017年にB&Hに参加。以降ディレクターとしてAnderson Mori & Tomotsune, SpiderPlus&Co, Prored Partners、AndersonFringe81、Takanome, ASUR, TAGPIC、ESTYLEなど、様々な企業のコーポレートブランディングにてブランド戦略策定・PM・ディレクションを担当。

Takako Nagai

Editor / Writer

1991年生まれ。学生時代にロシア滞在、台湾留学、数カ国でのホームステイを経験し、服飾社会学を学ぶ。東京学芸大学卒業後、行方淳に師事。独立後、ファッションエディター、ディレクター、コピーライターとして、幅広く活動。アート、映画、音楽など、カルチャーの造詣の深さを生かしたエディトリアルとディレクションを展開。主な仕事は、雑誌、広告、ブランディング、オウンドメディア制作、アーティストビジュアル制作、MV制作他、多ジャンルで活動する。

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